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わたくし小説

自分の直接体験したことを題材に、心境を掘り下げて書く物語を私小説と呼ぶ。たかだか身辺雑記と濫読備忘録ではあるが、我が人生の後半戦は「わたくし小説」の主人公の気分でありたいと願うこの頃。

ダーティ・ワーク

今日の1冊

絲山秋子「ダーティ・ワーク」 ★★★1/2

エッジの効いた短編集。女性ギタリスト熊井が不安を抱えながら淡々と生きる日々の中で、学生時代のバンド仲間TTとの日々を追想する一編を皮きりに、熊井とTTに少しづつ繋がりのある人間たちの話が連作短編として登場し、最後に熊井とTTの話に戻って終わる。孤高な暮らしの不安、闘病、サラリーマン社会への不適合、ギャンブル中毒、不倫、家族との軋轢と和解など、ありふれた日常の、ありふれないそれぞれのドラマが描かれる。

登場する人物たちが、くっきりとした都市生活の輪郭を纏って迫ってくる。特に女性が素晴らしい。リアルな苦さと、リアルな救いがある。好感。

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テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

銀河英雄伝説

今日の1冊

田中芳樹「銀河英雄伝説」全10巻 ★★★

いまさら20年も前の作品を取り上げるのも何かと思うが、今まで未読だったのを、復刻文庫版で一応正月休みに読んだので記録しておく。なんというか、結構恥ずかしい部分も多く、そういう意味で良くも悪くもスペオペのメインストリームではあるのだろうな、と。

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極限捜査

今日の1冊

O.スタインハウアー「極限捜査」 ★★★★1/2


1950年代、冷戦の始まりに揺れる架空の東欧の小国。隣国ポーランドの民主化運動の高揚と東欧の動揺を押さえ込もうとするソビエトの動きが政治的背景として描かれ、舞台となる警察署の捜査課にも、ソビエトから送り込まれたKGB要員の監視の眼が光っている。

主人公はたたき上げの刑事でありながら、従軍時代の経験を描いて話題作となった小説作家の顔も持つ。重苦しい世相と、抑圧された仕事、さらには妻との不和に悩む日常に疎外感が強まり、次回作執筆も父として進まない。仲の良かった同僚と妻の不倫、芸術家サークルでの精神の平衡を欠いたいびつな交情、同僚との衝突と押さえの効かない暴力衝動、脳裏に蘇る戦争での忌まわしい殺戮の記憶、捜査の行き詰まり・・・・徐々に歯車が狂いだす主人公を、さらに深みに引き込むように、ようやく手がかりを掴んだ捜査の手がかりを追う前途に、公安警察が立ちはだかる。自らの正義感やプライドと、公安の恐怖の板ばさみで苦闘が執拗に描かれる。

ソビエト-東欧エスピオナージュというのはすでに過去の遺物だと思っていたがどんでもない。

21世紀のこの時代に、冷戦下の東欧の警察小説をこれだけ重厚に描ききって、しかも読者を強く引き込んで長編を一気に読ませることができるとは、なんという筆力だろうか。リアリティに徹し予定調和を拒みながら、かつエンタテイメントとして成立している。とにかく重い。苦しい。でもやめられない。

また新たなすばらしい読書経験を提供してくれた著者に、感謝したい。

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螺鈿迷宮

今日の1冊

海堂尊「螺鈿迷宮」 ★★★1/2

「桜宮サーガ」シリーズにおいて、「火喰い鳥」白鳥室長の秘蔵の部下、氷姫こと姫宮嬢が初めて本格的に登場する長編。前作「ナイチンゲールの沈黙」での前振りを受けて満を持して登場した氷姫は懸命のスラップスティックコメディ演技で活躍するが、謎多き桜宮病院の強烈な院長父娘のキャラクターのあおりを喰ったか、残念ながらやや影が薄い。ドタバタした作劇で最後まで落ち着かなず、火喰い鳥も歴戦の院長を前に精彩を欠く。連作としては明らかに息切れの懸念を感じる。

シリーズとしては限界も垣間見える本作ではあるが、しかし、「終末医療の切捨て告発」など数々の直球勝負の問題提起は鋭く、軽妙な筆致と対照的に読む者の心に重たいしこりを残す。エンタテイメントとしては不出来に違いないが、記憶に残る作品。


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虚空の旅人

今日の1冊

上橋菜穂子「虚空の旅人」 ★★★★

なんのかんのと文句をつけながらも読み続けているシリーズ第4作。本作には短槍使いのバルサは登場せず、主人公は新ヨゴの皇太子チャグムである。チャグムと星読博士シュガが、王の遣いとして隣国の王位継承式典に列席する旅に出て、事件に巻き込まれる。

これまでのシリーズ作品の中で、主人公サイドでない登場人物がもっとも生き生きと描かれていて、わたくしとしては最高の心地よさだった。魅力的な脇役・敵役キャラクターが登場して今後の大河シリーズに期待が高まる。反面、第1作で瞠目した比類ない「環太平洋っぽさ」がますます薄まって、やや「普通の」ファンタジー小説に近寄った印象。「面白さ」と「新しさ」はイコールではないのかと、我ながら複雑。

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